ここから、在庫量の設定について解説していきます。
この記事では、安全在庫の求め方を計算式から解説します。安全在庫が求まると、発注点や最大在庫が計算できるので、在庫量を決めていく上で、重要な指標となります。
また、安全在庫は、適正在庫の下限値となるので、適正在庫との関係も押さえましょう。
ただし、計算値には注意点もありますので、併せて確認していきます。
在庫量設定
安全在庫とは
安全在庫とは、欠品を防ぐための余剰在庫分です。
図のように、適正在庫との関連も押さえて下さい。安全在庫はあくまでも、余剰分ですので、在庫の適正水準の下限値となります。
最大在庫から安全在庫付近の範囲で在庫量が推移する状態が、在庫の”適正水準が維持されている状態”と言えます。出庫量が上振れした時には、在庫量は安全在庫に食い込みますが、欠品には至りません。
適正在庫量とは ”欠品しない、最小在庫量” と定義されます。
適正在庫については、下記の記事で解説しています。
安全在庫の計算式
1.基準統計量
①安全係数 = 欠品許容率から設定
②標準偏差 = 出庫量の標準偏差
③調達期間 = 発注リードタイム
④発注間隔 = 定期発注時の発注間隔
2.計算式
安全在庫 = 安全係数 × 標準偏差 × SQRT ( 調達期間 + 発注間隔 )
*SQRTは、平方根:√(ルート)のことです
詳細
標準偏差
標準偏差はσ(シグマ)の記号で表記され、データのばらつき範囲をあらわしています。
σに係数を掛けることにより、データの発生確率を判定できます。
±1σ = 68.2%
平均値から±1σの範囲のデータは、68.2%の確率で発生する
±2σ = 95.4%
平均値から±2σの範囲のデータは、95.4%の確率で発生する
±3σ = 99.8%
平均値から±3σの範囲のデータは、99.8%の確率で発生する
※Excel関数について
Excelで標準偏差を計算するときは、STDEV.PとSTDEV.Sの関数がありどちらを使うか迷う時があります。
簡潔に説明すると、STDEV.Pは母集団(取得データ)から偏差を計算するのに対し、STDEV.Sは母集団(取得データ)からサンプルを抜き取り偏差を推定する計算式となります。
在庫管理で使用する場合は、季節変動を含んだ1年分のデータが取得できる時はSTDEV.Pを、データに不足がある場合はSTDEV.Sを使用するのが適正です。
ただし、安全在庫の計算式は過剰に計算される傾向があるので、STDEV.Sより小さく計算される、STDEV.Pを使用する事を推奨します。
安全係数
安全係数は欠品許容率から、下表より設定します。
安全係数は、何%までなら欠品してもいいかを考慮し、任意に設定します。一般的には、安全在庫の計算値が大きくなり過ぎないように、Aランク品に対し欠品許容率 5%の1.65を用い、ランク別に順次下げていきます。
※欠品率について
安全係数は、標準偏差に掛ける係数です。発生確率をサービス率とし、その逆数が欠品率をあらわすことを利用し、欠品許容率に対する係数としてあらわされています。
σに安全係数を掛け、片側の発生確率を判定すると
+1.29σ = 40.0%
平均値から+1.29σの範囲のデータは、40.0%の確率で発生する
+1.65σ = 45.0%
平均値から+1.65σの範囲のデータは、45.0%の確率で発生する
+2.33σ = 49.0%
平均値から+2.33σの範囲のデータは、49.0%の確率で発生する
欠品率を計算すると
マイナス側は欠品の恐れがないので、50.0%を加算するとサービス率がもとまります。
サービス率とは欠品しなかった確率で、逆数をとると欠品率が計算されます。
欠品率(%)=100%-サービス率(%)
期間項目
期間項目は平方根を用います。
平方根を用いる理由は、統計学の分散の加法性理論で説明され、予測誤差は単純に足し合わせるのではなく、2乗してから加算し、平方根をとります。
ここで、分散とは、標準偏差(σ)に対し、分散(σ^2)とあらわされます。
安全在庫の計算式は標準偏差で表すので、期間項目は、2乗せず加算し、平方根を取ります。
計算値が小さく感じますが、調達期間中に出庫量が上振れする確率を考えると適正だと言えます。
注意点
安全在庫の計算値は過剰になりがちです。安心在庫ではないので、定期的な観測などから、在庫量の低減に努めましょう。
安全在庫の計算値が大きくなってしまう理由としては、下記内容があります。
・標本データが正規分布していないと、標準偏差が大きな異常値をとります。ですので、正確な統計データの取得に努めましょう。
・安全係数を高くとると、在庫量は大きくなりすぎます。欠品許容率の値にこだわり過ぎず、低めに抑えましょう。
次回は、発注点・最大在庫の求め方を解説します。
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